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コラム

逆引きマーケ

逆引きマーケ ちょっと寄り道 
ひとりごと「原点に戻ると、商売の本質が見えてくる」

私はずっと、小さなカフェをやりたいと思っている。
それは目標というよりも、長い間もっている漠然とした「夢」。
あるいは、人生のどこかに存在する「もうひとつの世界」のようなものだ。

たぶん、その原点は私の社会人としての出発点でもある、とある下町のカフェでのアルバイト経験にある。

先日、久しぶりにお店に行って、マスターと話をした。
老舗のカフェ。
マスターはいつも嬉しそうに迎えてくれる。
お歳を召されたが、いつも元気なマスターがそこにいる。

珈琲道場侍は、私が18歳の時、人生で初めてアルバイトをした店だ。

大学1年生の夏休み。
JR亀戸駅前に新規開店準備中の店があり、「オープニングスタッフ募集」の貼り紙が出ていた。

面接の日、私は短パンにサンダルという格好で行った。
当然のように叱られた。
それでも採用され、私は開店第1号のスタッフになった。

当時の私は、ギターと作曲とバンド活動に夢中だった。
自分は何でもできると思っていた年頃で、大学よりも音楽のほうが大切だった。
18歳から25歳まで、私は侍で働きながら音楽という夢を追い続けた。

接客は、本当に厳しかった。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
声の出し方から、お客様への姿勢まで何度も教えられた。
従業員は、トイレを使うたびに掃除をする。

当時はバブル景気の真っ只中。
店は毎日大繁盛だった。
カウンターの中とホールを行ったり来たりしながら、コーヒーを淹れ、パンを焼き、生ホイップを作り、洗い物をする。
忙しい日は、カウンターの隅にしゃがみ込んでパンをひとかじりするのが昼食だった。

若い頃は気づかなかったが、会社を経営するようになって分かったことがある。
あの頃に教わったことは、すべてに通じていることを。

トイレ掃除も。
接客も。
挨拶も。
声を掛け合うことも。
お客様の顔を覚えることも。

結局、商売の本質は派手なマーケティングや難しい理論ではなく、「目の前の一人のお客様を大切にすること」なのだと思う。

マーケティングというと、どうしても戦略や仕組みの話になりがちだ。
しかし、その土台には必ず人がいる。

今でも侍に行って、水出しアイスコーヒーを飲みながら、まだまだお元気なマスターとお話をするのが楽しい。

私の仕事の原点は、すべてこのお店で学んだのだと思う。
だから私は今でも、小さなカフェをやっている自分を思い描く。

いつか本当に小さなカフェをやる日が来るのかどうかは分からない。でも、水出しアイスコーヒーを飲みながらマスターと話をしていると、私の商売の原点は今もあの店の中にあるのだと感じる。

辻 正雄
デジタジオ株式会社(ビジコン運営)代表
株式会社アーティストユニオン代表
経営者に寄り添うマーケター:マサオフィス

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